ボン大学 基礎配属留学体験談
和歌山県立医科大学医学部医学科3年
山本 明日美
私は7月から8月末までの約2か月間、ドイツにあるボン大学のInstitute of Cardiovascular Immunologyに留学しました。ここでは自己免疫やウイルス感染などについての研究が行われており、第一希望の留学先でした。私は1年生の頃から生体調節機構研究部の改正先生のもとで免疫学の勉強会に参加させていただいており、2年の秋からはM.D-Ph.Dコースに入りました。その中で自然免疫に興味を持つようになったのが、こちらのラボを選んだ動機です。偶然にも、教授の加藤博己先生は私と同じ高校のご出身であり、国境を越えたつながりは貴重なご縁だと感じました。
今回、私はマウスの脳の解析を行うことが主な課題となっており、パラフィンブロックの薄切から免疫染色までの手技を習いました。また、ドイツへの到着から数日後には、解析を行うサンプルに関するプレゼンを行いました。英語で発表から質疑応答までを行うのは初めてでしたが、留学前に論文抄読会で改正先生に指導していただいていたおかげで、自分の満足いくプレゼンにできたと思います。
ラボではトルコ出身の大学院生に実験を習い、日本とは一味違った雰囲気の中、気を張りすぎることなくのびのびと取り組むことができました。今回の課題は私にとって初めての組織学的解析だったのですが、ある程度手技を習得してからは自分自身で実験を行えるようになり、自ら考えて進められることにやりがいを感じました。手技の習得から結果を出すまでには時間を要し、その間に何度もプロトコルを見直す必要がありましたが、そのおかげで実験のより深い理解につなげられたと思います。時には夜遅くまで残って実験することもあり、落ち着いて研究に集中できる良い機会になりました。
ラボメンバーとの会話は英語で、日本に比べれば、英語が通じる人が街中にも多い印象でした。さらに大学には様々な国出身の人が集まっているため、日常の些細な会話の中でも文化の違いが話題になるなど、異文化交流が身近なところにありました。滞在を通してドイツの暮らしになじむと同時に、日本人である自分のアイデンティティを大切にしたいとも思うようになりました。
また、日本に留学経験のある韓国人学生と日本語で話したことで、ネイティブでない話者の話す言葉がネイティブスピーカーにとってどのように聞こえるのかを知ることもできました。これによって、完璧な英語でなくとも伝えようとする気持ちがあれば伝わるのだとわかり、英語で話すことへのハードルが下がりました。
さらに、実験で使う機械を借りていた関係で、別のラボの中国人学生と知り合いになることもできました。私は1年生の時の第二外国語としてドイツ語ではなく中国語を選択していたので、ドイツにいながらにして中国語を使ってみることができたのは嬉しい偶然でした。週末に一緒に出かけたり、中国式のhot pot partyに招いてもらったりと、ラボの垣根を超えた交流ができたのは良い思い出です。
平日は毎日ラボに通い、土日はドイツの生活や文化を楽しみました。私はクラシック音楽が好きなので、ベートーヴェンの生誕地やシューマンの没地として知られるボンは憧れの地でした。滞在期間中、3年ぶりに開催されたBeethovenfest Bonnが始まり、コンサートに行ったり街中での演奏を楽しんだりと、街に根ざした音楽を体感することができました。
日本に帰国してからは、ドイツの生活になじんだことによる逆カルチャーショックを多く感じました。そして日本の行き届いたサービスのありがたみを実感するとともに、労働者の権利を尊重する必要性にも思いをはせるようになりました。また、ドイツで自分自身が外国人になる経験をしたことで、日本における外国人目線での住み心地や、外国人に対する日本人の意識を考え直すきっかけになりました。
この留学を通して、研究活動への意欲がより高まったことはもちろん、将来像や人生観に対しても大きな刺激を受けることができました。コロナ禍が続く中、3年ぶりの海外基礎配属を実現させるべく働きかけてくださった改正先生には、感謝してもしきれません。さらに、温かく受け入れてくださった加藤先生やラボメンバーの皆様、そして国際交流センターの林さんをはじめとして、留学に関わってくださった全ての方々に厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。このたび得られた経験を活かし、今後の学生生活、研究活動にも一層精進していく所存です。
ラボメンバーと ライン川にて